筋金入りのバトルラッパーKool Moe Deeの『Let’s Go』はLL Cool Jとのビーフ中、LLの『Jack The Ripper』に対するアンサーソングとして発表されました。LLのことをボロクソにディスりまくっているためアルバムには収録されず、アルバムからのシングル『No Respect』のB面収録になったというイワく付きの曲です。
インテリかつバトル出身ということでスキルフルかつ的確にLLを射抜くライムは必聴で必見ですよ。
Let’s Go / Kool Moe Dee
楽曲詳細
タイトル | Let’s Go |
アーティスト | Kool Moe Dee |
プロデュース | unknown |
収録アルバム | No Respect / Let’s Go |
リリース年 | 1987 |
レビューと解説
ステージ上で初めてディス・ソングを披露したことでも知られる「Treacherous Three(トリーチャラス・スリー)」のMCであるKool Moe Dee(クール・モー・ディー)。筋金入りのオールドスクーラーでバトルMCのKool Moe Deeが、LL Cool J(LL・クール・J)とのビーフ合戦中に発表したこのLet’s GoはKool Moe DeeのバトルMCとしてのスキルが溢れまくった名曲です。
アルバムには収録されず、シングル『No Respect』のB面にのみ収録されたこの曲は、白熱したビーフの影響もあり、ヒップホップの歴史を語る上では聴き逃すことのできない隠れ名曲となっております。特に本曲2:53あたりから始まるLL Cool JのLLの部分を言い換えた
LL stands for
Lower Level, Lack Lustre
Last Least, Limp Lover
Lousy Lame, Latent Lethargic
Lazy Lemon, Little Logic
Lucky Leech, Liver Lipped
Laborious Louse on a Loser’s Lips
Live in Limbo, Lyrical Lapse
Low Life with the Loud raps, boy…
がまさにフルボッコで凄まじいです。
ちなみにLL Cool Jの本来の名前の由来は「Ladies Love Cool James」です。
LL Cool Jとのビーフ
まずはKool Moe Deeが『How Ya Like Me Now』で攻撃。

ジャケットではLLのトレードマークの赤いカンゴールハットをジープで踏みつぶす。
本曲Let’s GoがLLに炸裂
『Let’s Go』でボロクソにディスられ、前作の売れ行き不振から世間では「LLは終わった」と言われた時に飛び出した改心の一撃。Kool Moe Deeだけでなく、聴いた者すべてをノックアウトする最高の一曲です。
以上のような応戦が続きました。最後はKool Moe Deeで終わっていますが、ストリートでの支持はLLが圧倒的であったため、LLの勝ちだと言われています。
ヒップホップ界の重鎮、Ice Cubeがディストラックについて語るインタビュー。24:41くらいで「お気に入りのディストラックは?」との問いに対し、1番最初に「LL Cool JとKool Moe Deeの『Rock the Bells』と『Let’s Go』はいいね、『Let’s Go』はヤバいよ。『Jack the Ripper』もいい」と話していますね。
他にはNasとJay-Z、2pacとBiggieを挙げています。
ビーフから思う「ヒップホップ」を語る勘違い
ここで余談ですが、「ビーフ」について少し語りたいと思います。ビーフとはラッパー同士が互いにディスりあう挑発のことを言います。
なぜビーフと呼ばれるようになったかというと、アメリカのハンバーガーチェーンのテレビCMでライバル店のハンバーガーの肉が小さいことに対して掲げた「What’s the Beef?」のキャッチコピーからきたと言われています。で、そのビーフについて昨今の「サイファーブーム」と「俺もおっさんになった」ということで小うるさい小言を言いたくなったってわけ。
そもそもヒップホップは「怖い人たちの音楽」と思われている部分もありますが、本来は「ピース(世界平和)」を提唱するカルチャーです。1970年代、ひどい貧困と社会情勢にあったスラム街では日々犯罪が多発し、ギャング同士のいざこざも日常茶飯事。
そこでその「暴力=相手を攻撃する力」を違うベクトルに変えようとしたのが、ご存知Afrika Bambaataaです。ヒップホップは
- DJ
- ブレイクダンス
- MC
- グラフィティ
の4つからなる総合カルチャーですが、すべてに「バトル」があります。つまり「暴力じゃなくこれらで喧嘩しようぜ。そうすれば盛り上がるし、仲間も死なねーし、ピースじゃん」と。
もともとはそうやって始まり、犯罪的な暴力をビーフというエンターテイメントに変換したヒップホップですが、2pacとBiggieという最大の悲劇を引き起こしてしまいます。これは今考えても本当に悲しい事件です。
僕がここで言いたいのは単純に「ビーフ=喧嘩」じゃないってこと。ディスりあいから場外で乱闘喧嘩、裏社会まで出てきて抗争、それでいて「これが俺のヒップホップ」だなんだとマイク持つ輩が出る始末にうんざりする。
ラップとヒップホップは違いますよね。ラップが好きなのはいいけど「ヒップホップ」を語る人間がカルチャーを侮辱してると「知らないのかな(てことは好きじゃない・知ろうともしてないのかな)」とか思っちゃう。
「俺のヒップホップ」と解釈するのは構わないが、間違った情報で先人たちが築き上げ、伝承してきたカルチャーを上書きしないでほしい。リスナーもいちいち声の大きいほうに踊らされるなと思う。
Afika Bambaataがヒップホップの要素に「知識」を入れた理由がよくわかります。Fabelも「情報をきちんとチェックして正しい知識をつけましょう」と言ってました。
関連楽曲紹介
Let’s Goが収録されているアルバム
No Respect / Kool Moe Dee

- Respect (Extended Version)
- No Respect (Single Edit)
- Let’s Go
- No Respect (Instrumental)
Let’s Goにサンプリングした曲・元ネタ
Think (About It) / Lyn Collins
James Brown率いるJB’sの歌姫Lyn Collinsの名曲をサンプリングしていますね。