『Mama Said Knock You Out』は同タイトルの4thアルバムからのカットで、インテリラッパーKool Moe Deeとのビーフに決着をつけた歴史的名曲です。Kool Moe Deeには『Let’s Go』でボロクソにディスられ、前作の売れ行き不振から世間では「LLは終わった」と言われた時に飛び出した改心の一撃。
Kool Moe Deeだけでなく、聴いた者すべてをノックアウトする最高の一曲です。
Mama Said Knock You Out / LL Cool J
楽曲詳細
タイトル | Mama Said Knock You Out |
アーティスト | LL Cool J |
プロデューサー | Marley Marl |
収録アルバム | Mama Said Knock You Out |
リリース | 1990 |
レビューと解説
ヒップホップの初期から現在まで活動を続けるシーンの重鎮、LL Cool J(LL・クール・J)の4thアルバム『Mama Said Knock You Out』からの1stカット曲です。今では定着している恋愛系の歌詞やバラードラップは、このLL Cool Jが第一人者でありますが、ストリートからはブーイングも多かったと言われています。
また、3rdアルバム『Panther』の売れ行き不信、ベテランラッパーKool Moe Dee(クール・モー・ディー)には『Let’s Go』でボロクソにディスられ、ストリートから「LLは終わった」とまで言われていた時に発表されたこの曲。Marley Marl(マーリー・マール)による
- Funky Drummer / James Brown
- Sing a Simple Song / Sly and the Family Stone
- Trip Your Heart / Sly and the Family Stone
- Ganster Boogie / Chicago Gangsters
をサンプリングした疾走感溢れるハードなビート上で、これまたハードに唾飛ばしまくりのシャウトしまくるLLのラップが炸裂する最高の楽曲です。ちなみにこの「ママ」とは母親ではなく、彼のおばあちゃんです。
LLは父親から虐待を受けていたため、祖父母に育てられたばあちゃんっ子なのですが、そのばあちゃんが「『お前なんてぶっ飛ばしてやれ』って言ってたぜ」って感じですね。ばあちゃんへの愛をうたった『Big Mama』も名曲です。
Kool Moe Deeとのビーフ
まずはKool Moe Deeが『How Ya Like Me Now』で攻撃。

ジャケットではLLのトレードマークの赤いカンゴールハットをジープで踏みつぶす。
『Let’s Go』でボロクソにディスられ、前作の売れ行き不振から世間では「LLは終わった」と言われた時に飛び出した改心の一撃。Kool Moe Deeだけでなく、聴いた者すべてをノックアウトする最高の一曲です。
以上のような応戦が続きました。最後はKool Moe Deeで終わっていますが、ストリートでの支持はLLが圧倒的であったため、LLの勝ちだと言われています。
ヒップホップ界の重鎮、Ice Cubeがディストラックについて語るインタビュー。24:41くらいで「お気に入りのディストラックは?」との問いに対し、1番最初に「LL Cool JとKool Moe Deeの『Rock the Bells』と『Let’s Go』はいいね、『Let’s Go』はヤバいよ。『Jack the Ripper』もいい」と話していますね。
他にはNasとJay-Z、2pacとBiggieを挙げています。
ビーフから思う「ヒップホップ」を語る勘違い
ここで余談ですが、「ビーフ」について少し語りたいと思います。ビーフとはラッパー同士が互いにディスりあう挑発のことを言います。
なぜビーフと呼ばれるようになったかというと、アメリカのハンバーガーチェーンのテレビCMでライバル店のハンバーガーの肉が小さいことに対して掲げた「What’s the Beef?」のキャッチコピーからきたと言われています。で、そのビーフについて昨今の「サイファーブーム」と「俺もおっさんになった」ということで小うるさい小言を言いたくなったってわけ。
そもそもヒップホップは「怖い人たちの音楽」と思われている部分もありますが、本来は「ピース(世界平和)」を提唱するカルチャーです。1970年代、ひどい貧困と社会情勢にあったスラム街では日々犯罪が多発し、ギャング同士のいざこざも日常茶飯事。
そこでその「暴力=相手を攻撃する力」を違うベクトルに変えようとしたのが、ご存知Afrika Bambaataaです。ヒップホップは
- DJ
- ブレイクダンス
- MC
- グラフィティ
の4つからなる総合カルチャーですが、すべてに「バトル」があります。つまり「暴力じゃなくこれらで喧嘩しようぜ。そうすれば盛り上がるし、仲間も死なねーし、ピースじゃん」と。
もともとはそうやって始まり、犯罪的な暴力をビーフというエンターテイメントに変換したヒップホップですが、2pacとBiggieという最大の悲劇を引き起こしてしまいます。これは今考えても本当に悲しい事件です。
僕がここで言いたいのは単純に「ビーフ=喧嘩」じゃないってこと。ディスりあいから場外で乱闘喧嘩、裏社会まで出てきて抗争、それでいて「これが俺のヒップホップ」だなんだとマイク持つ輩が出る始末にうんざりする。
ラップとヒップホップは違いますよね。ラップが好きなのはいいけど「ヒップホップ」を語る人間がカルチャーを侮辱してると「知らないのかな(てことは好きじゃない・知ろうともしてないのかな)」とか思っちゃう。
「俺のヒップホップ」と解釈するのは構わないが、間違った情報で先人たちが築き上げ、伝承してきたカルチャーを上書きしないでほしい。リスナーもいちいち声の大きいほうに踊らされるなと思う。
Afika Bambaataがヒップホップの要素に「知識」を入れた理由がよくわかります。Fabelも「情報をきちんとチェックして正しい知識をつけましょう」と言ってました。
LL Cool Jとは

LL Cool J(LL・クール・J)はアメリカニューヨーク市クイーンズ出身のMCです。Def Jam(デフ・ジャム)からわずか16歳という若さで「アイドルラッパー」という立ち位置でデビューしました。
その後も活動をコンスタントに続け、現在までベストアルバム2枚を含む15枚のアルバムをリリース、俳優としてドラマや映画にでも活躍しています。
関連作品紹介
Mama Said Knock You Outが収録されているアルバム
Mama Said Knock You Out / LL Cool J

- The Boomin’ System
- Around The Way Girl
- Eat ‘Em Up L Chill
- Mr. Good Bar
- Murdergram
- Cheesy Rat Blues
- Farmers Blvd. (Our Anthem)
- Mama Said Knock You Out
- Milky Cereal
- Jingling Baby (Remixed But Still Jingling)
- To Da Break Of Dawn
- 6 Minutes Of Pleasure
- Illegal Search
- The Power Of God
Mama Said Knock You Outにサンプリングした曲・元ネタ
Trip to Your Heart / Sly and The Family Stone
0:13〜の部分ですね。
Sing a Simple Song / Sly and The Family Stone
もう1つSly and The Family Stoneの曲を。こちらは定番のドラムブレイクをサンプリングしています。
Funky Drummer / James Brown
これまたド定番の5:34〜のドラムブレイクをサンプリング。
Gangsta Boogie / Chicago Gangsters
数々の曲にサンプリングされている大ネタを使用。ギャンスタブギー。ギャンスタブギー。
Mama Said Knock You Outをサンプリングした曲
Boom! Shake The Room (Street Remix) / DJ Jazzy Jeff and The Fresh Prince
現在はWill Smith(ウィル・スミス)として俳優業が大成功しているFresh Princeの名曲のリミックス曲でサンプリングされています。